1. 皮膚疾患群
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膿疱性乾癬(汎発型)

のうほうせいかんせん(はんぱつがた)

pustular psoriasis

告示

番号:12

疾病名:膿疱性乾癬(汎発型)

定義

膿疱性乾癬(汎発型)は、急激な発熱とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する稀な疾患である.病理組織学的にKogoj 海綿状膿疱を特徴とする角層下膿疱を形成する.再発を繰り返すことが本症の特徴である.尋常性乾癬皮疹が先行する例については成人例がほとんどであるので他稿に譲る。経過中に全身性炎症反応に伴う臨床検査異常を示し、しばしば粘膜症状、関節炎を合併するほか、まれに眼症状、二次性アミロイドーシスを合併することがある2)

疫学

厚生労働省の特定疾患受給者個人調査票のデータをみると、我が国における膿疱性乾癬(汎発型)の新規発生患者は、2004年が83人、2005年が84人であった。性別では男性にやや多い傾向がある。発症年齢は幼児から高齢者にわたるが小児期と30歳代にピークをもつ。

病因

膿疱性乾癬(汎発型)は尋常性乾癬(肉眼的に膿疱を形成することが少ない炎症性角化症の代表的疾患の一つ)が先行して発症する症例がある一方で、全く尋常性乾癬と関連がない症例もある。2013年、日本人汎発性膿疱性患者のIL36RN遺伝子変異の解析が行われ、尋常性乾癬の先行がない患者の8割から当該遺伝子変異が発見された3)。しかし、この遺伝子が唯一の原因遺伝子であることは結論できなかった。今回行われた調査は、成人患者を主体としており、小児患者での変異検索は今後の検討を待ちたい。

臨床症状

急性期症状は、前駆症状なしに灼熱感とともに紅斑を生じる。多くは悪寒・戦慄を伴って急激に発熱し、全身皮膚の潮紅、浮腫とともに無菌性膿疱が全身に多発する(図1)。膿疱は3~5mm大で、容易に破れたり、融合して環状・連環状配列をとり、ときに膿海を形成する(図2)。爪甲肥厚や爪甲下膿疱、爪甲剥離などの爪病変、頬粘膜病変や地図状舌などの口腔内病変がみられる。しばしば全身の浮腫、関節痛を伴い、ときに結膜炎、虹彩炎、ぶどう膜炎などの眼症状、まれに呼吸不全、循環不全、悪液質や腎不全を併発することがある。 慢性期には、尋常性乾癬の皮疹や、手足の再発性膿疱のほか、非特異的紅斑・丘疹など多様な症状を呈する。急性期皮膚症状が軽快しても、強直性脊椎炎を含むリウマトイド因子陰性関節炎が続くことがある。 図1.浮腫性紅斑性局面と多発性膿疱 図2.多発性小膿疱と膿海形成
難病ホームページより許可を得て転載1)

誘因

感染症(特に上気道感染)、紫外線曝露、薬剤(特に副腎皮質ホルモン薬など)、低カルシウム血症、ストレスなどが知られている。抗生物質、鎮痛解熱薬によって誘発されることもあるが、膿疱型薬疹(全身性汎発性発疹性膿疱症:AGEPを含む)との鑑別が必要である。ちなみに膿疱形成が一過性の場合は、膿疱性乾癬(汎発型)と診断されない(診断基準を参照)。

検査所見

病理組織学所見:表皮肥厚や表皮突起延長に加えて、表皮角層下に好中球性膿疱を認め、その周囲のKogoj海綿状膿疱がみられるのが特徴である。 血液検査所見:本症に特徴的なものはないが、合併症の有無や重症度の判定に必要である。白血球増多・核左方移動、血沈亢進・CRP強陽性・ASLO高値、IgGまたはIgAの上昇、低蛋白血症・低カルシウム血症などが認められる。

重症度判定と合併症を評価する臨床検査

膿疱性乾癬に特徴的な血液・尿検査項目はないが、全身性炎症反応にともなう白血球増多、核左方移動、赤沈亢進、CRP陽性のモニターは重症度判定に重要である。その他に、IgGまたはIgA上昇、低蛋白血症、低カルシウム血症を示すことがある。病巣感染としての扁桃炎、ASLO高値、その他の感染病巣の検査や、合併症として強直性脊椎炎を含むリウマトイド因子陰性関節炎、眼病変(角結膜炎、虹彩炎、ぶどう膜炎、ほか)に注意が必要である。肝・腎・尿所見のスクリーニングは治療の選択や二次性アミロイドーシス評価に有用である。

治療

膿疱性乾癬(汎発型)は稀少な疾患であり、エビデンスに基づく診療指針を提言することが難しい。診療ガイドライン1)から治療の要点を抜粋する(日本皮膚科学会のホームページ(http://www.dermatol.or.jp/)から取得できる診療ガイドライン中に掲載されている治療アルゴリズム(13ページ)を参照)。本症は生命を脅かす病態であるため、妊娠、授乳婦、小児の患者治療に際しては、安全性が確立されていない薬剤を組み入れざるをえないことがある。 急性期の全身管理 膿疱性乾癬(汎発型)の直接死因は心・循環不全が多く、全身管理と薬物療法が必須である2)。乾癬治療薬による重症の副作用(メトトレキサートによる肺線維症や肝不全、レチノイン酸症候群と呼ばれる呼吸不全など)に注意する必要がある。最近では、ARDSやcapillary leak症候群に伴う呼吸不全と循環不全のため重症化する症例が散見される4)。急性期の肺合併症にはステロイド内服が用いられる。 [参考]成人(非妊婦、授乳婦)に対する内服療法 エトレチナートとシクロスポリンは何れも第一選択薬である。エトレチナートの用量は0.5~1.0mg/kg/dayから開始し、症状にあわせて用量を調節する。長期治療における副作用(肝障害、過骨症、骨端の早期閉鎖、催奇性など)に留意する。 シクロスポリンは2.5~5.0mg/kg/dayで開始され、症状にあわせて用量を調節する。長期治療では腎障害や高血圧などに注意し、血清クレアチン値が上昇した場合は用量調整を行う5)。 メトトレキサートは、他の全身治療に抵抗性の症例や、関節炎の激しい症例に推奨される。わが国では保険適用がないこと、副作用(肝障害、骨髄抑制、間質性肺炎など)に留意し、十分なインフォームドコンセントに配慮する。 妊娠までの最低限の薬剤中止期間は、エトレチナートでは女性2年間、男性6か月、メトトレキサートでは男女とも3ヶ月とされている6)。 小児の膿疱性乾癬(汎発型)に対する治療 エトレチナート療法は骨成長障害があるため小児には第一選択薬として推奨できないが、シクロスポリンが奏効しない場合や減量が難しい場合には選択せざるを得ないことがある。十分な説明と同意を取得した上で適応を考慮する。 生物学的製剤を用いた治療 生物学的製剤は近年の免疫学や分子生物学の進歩の元に、最近開発された薬剤である。本邦でも、TNFα阻害薬がCrohn病や関節リウマチ、ベーチェット病などで使用されている。尋常性乾癬や関節症性乾癬に対するランダム化二重盲検試験の報告があるが、治療全体における生物学的製剤の位置づけは確立されていない。膿疱性乾癬(汎発型)に対する治療経験は少数であり、EBM的見地から治療の位置づけや長期安全性を明確にすることは難しい。適応追加後の症例報告の蓄積に頼らざるを得ない。 妊娠、授乳婦、小児の患者治療に際して、本症は生命を脅かす病態であるため、安全性が確立されていない薬剤を組み入れざるをえないことがある。生物学的製剤はエトレチナートやシクロスポリンが使用できない症例や関節症状がある症例に、十分な説明と同意を取得した上で適応を考慮する。 合併症とその対策 膿疱性乾癬(汎発型)では、合併する関節症状や虹彩炎などの眼合併症の治療を必要とすることがあり、長期間の炎症症状に起因する二次性アミロイドーシスを生じることもある。とくに関節症は20%程度に合併し、関節変形の後遺症が問題となる。皮膚症状だけでなく、関節症の活動性や重症度を判断し、両者に効果的な薬物療法を選択し、皮疹がコントロールされた後でも関節症に対する治療計画をたてることがQOL改善に必要である。 参考: 1) 治療選択 全国調査(1994年)の結果(急性、慢性期を含む)では、エトレチナートの内服が最も高頻度に使用されている(67.6%)。続いてPUVA療法(32.4%)、ステロイド内服(29.5%)、シクロスポリン内服(22.5%)、その他の療法(16.4%)、メトトレキサート(16.2%)、扁摘(8.2%)、シクロスポリン以外の免疫抑制剤(2.9%)の順で治療が選択されている。 2) 各治療法の効果・副作用 全国調査において、著効、有効、やや有効、無効の4段階で各治療法の有効性を調査した結果、エトレチナートが有効性79.4%(著効+有効)と最も優れており、続いてステロイド、シクロスポリン、メトトレキサートはほぼ同等の効果(60%)を示していた。副作用の頻度はエトレチナートにおいて最も高く(38.8%)、続いてシクロスポリン(30.9%)、ステロイド(26.4%)、メトトレキサート(20.4%)である。

予後

治癒あるいは膿疱出現が減少した軽快例は、43.0%の患者で認められる。しかし、膿疱出現をくり返す例や、膿疱出現が増加した再発例も多く、これに尋常性乾癬に移行した例と死亡した例を加えると、約半数の症例は同程度の再発をくり返すし、難治といわざるを得ない。2回の全国調査(1989年、1994年)において、208例の汎発性膿疱性乾癬患者中10例(第1回目調査)、244例中7例(第2回目調査)の死亡患者の登録があり、稀ながら不幸な転帰をとる症例が存在する。死亡統計では、4.2例/年で、55歳以上の男性に多い。海外の報告では、死因として悪液質、心血管系異常、アミロイドーシス、メトトレキサート合併症などの報告がある。小児期発症患者の成人以降までの追跡調査は今後の課題である。

予防

膿疱性乾癬(汎発型)の誘因として、感染症(ことに上気道感染)、紫外線曝露、薬剤、低カルシウム血症、ストレスなどがあり、その予防に努める。

文献・URL

1. 難病情報センター:http://www.nanbyou.or.jp/entry/313 、日本皮膚科学会ホームページ:http://www.dermatol.or.jp/ 2. Roth RE, Grosshans E, Bergoend H: Psoriasis: development and fatal complications.Ann Dermatol Venereol. 118: 97-105, 1991. 3. Sugiura K, Takemoto A, Yamaguchi M, et al. The majority of generalized pustular psoriasis without psoriasis vulgaris is caused by deficiency of interleukin-36 receptor antagonist. J Invest Dermatol, 133:2514-21, 2013. 4. Abou-Samra T, Constantin JM, Amarger S, et al: Generalized pustular psoriasis complicated by acute distress syndrome.Br J Dermatol, 160: 353-356, 2004. 5. 中川秀己、相場節也、朝比奈昭彦ほか: シクロスポリンMEPCによる乾癬治療のガイドライン2004年度版コンセンサス会議報告. 日皮会誌, 114: 1093-1105, 2004. 6. Weatherhead S, Robson SC, Reynolds NJ: Management of psoriasis in pregnancy.BMJ, 334: 1218-1220, 2007.
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児皮膚科学会