1. 慢性消化器疾患
  2. 大分類: ヒルシュスプルング(Hirschsprung)病及び類縁疾患
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慢性特発性偽性腸閉塞症

まんせいとくはつせいぎせいちょうへいそくしょう

chronic idiopathic intestinal pseudo-obstruction

告示

番号:37

疾病名:慢性特発性偽性腸閉塞症

概念・定義

慢性特発性偽性腸閉塞症(Chronic Idiopathic Intestinal Pseudo- Obstruction:CIIP)は、消化管運動機能障害のために、解剖学的な腸管の閉塞がないにもかかわらず、腹部膨満、嘔気・嘔吐、腹痛、腸管拡張などの腸閉塞様症状をきたす原因不明の難治性疾患である。 消化管内容物の輸送を妨げる物理的閉塞がないにも関わらず、腸閉塞様症状を呈し画像検査で腸管拡張や鏡面像を認める偽性腸閉塞症(Pseudo-Obstruction)には、Hirschsprung病(腸管無神経節症)のように消化管病変よる原発性(Primary)のものと甲状腺機能低下症、膠原病、中枢神経疾患などの全身疾患や薬剤に伴う続発性 (Secondary)のものとがある。小児期発症の慢性偽性腸閉塞症 (Chronic Intestinal Pseudo-Obstruction: CIPO)の多くは、特発性(idiopathic)である。

疫学

CIIPの小児発症例は、本邦での2001-2010年の全国調査では92例であり、男女比は43:49(女児53%)であった。診断時年齢は新生児期52%、乳児期21%、幼児期15%、学童以上で11%であった。成人と比して高率(62%)に消化管の全層生検検査が行われていた。報告された慢性偽性腸閉塞(CIPO)の90%以上が特発性であった。

病因

多くは散発性に発症すると考えられているためその多くはいまなお原因不明である。病理学的診断がなされたものにおいては神経節細胞に異常を認めないものが82%、神経節細胞に異常を認めたものが18%であった。消化管のペースメーカー細胞であるCajal細胞の異常であるとする報告があるが一定の見解を得ていない。消化管のどの部位にもまた複数個所に蠕動障害は生じ得る。全国調査92症例の病変部位は、胃:20%、小腸:54%、結腸:49%、直腸:22%と小腸や結腸に多く認められた。

症状

腹部膨満、嘔吐、便秘、下痢で発症し、特徴的なものとしては激しい腹痛をきたす症例がある。慢性の経過をたどるものが多いが、消化管の安静により症状が軽快する場合もある。しかし、多くの症例は増悪を繰り返しながら病状は進行する。消化管の減圧が奏功しない場合は、穿孔をきたしたり、腸炎から敗血症へと至り死亡する症例も存在する。

治療

新生児期や乳児期に腸閉塞症状で発症し診断や治療のために緊急手術が必要なものや、年長児になって徐々に症状が進行するものもある。いずれにおいても長期に治療や経過観察が必要な疾患である。重症例では消化管減圧のためのチューブ挿入や腸瘻造設、栄養や水分の補給のために埋め込み型の中心静脈カテーテルの留置が必要となる。腸瘻造設術や蠕動不全腸管切除術を行っても残存腸管にも機能異常が存在するため、術後も腸閉塞症状は軽快や増悪を繰り返すことが多い。このため試験開腹術、腸瘻造設術、腸管切除術、腸瘻閉鎖術など多数回の手術が行われることもある。このような症例では繰り返し長期入院管理が必要になり、外来管理を行う場合でも経静脈栄養や経腸栄養、腸瘻管理などのために患者の日常生活は著しく制限される。2001-2010年の全国調査92例では52%に腸瘻造設術が、4%に小腸移植が行われていた。このように小腸移植単独あるいは多臓器移植を必要とする症例も存在する。

予後

2001-2010年の全国調査92例では90%以上の症例は長期に生存しているものの病状の改善が得られたものは少なく、平均病悩期間は14.6年と長期に及んである。半数近い症例が、胃瘻・腸瘻や消化管留置カテーテル等による消化管減圧を必要としていた。また30%以上の症例が、経静脈栄養や経腸栄養などの何らかの栄養療法を必要としていた。
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児外科学会